「SESはやめとけ」という言葉を、よく見かけます。
新卒でSES企業に入り、15年勤めて、いまは自社開発の会社にいます。その立場から、この言葉について書いておきます。
先に、雑な結論を否定しておく
まず、「SESはやめとけ」という言い方そのものは、あまり良いものだと思っていません。理由が4つあります。
1. いい現場も、確かにある
SESは「現場ガチャ」という言葉で表されることがあります。私が15年で経験した現場の中にも、働きづらいところもあれば働きやすいところもありました。苦手な人もいました。良い人もいました。様々な現場で様々なノウハウを身に着け、学べた時期もあります。
「SESは駄目」という言葉で片付けてしまうのは、事実に反します。
2. 「SESが辛い」のか「その現場が辛い」のか
8~9年目頃に入った現場は、正直かなりきつかったのですが、それはSESの問題というよりもどちらかと言えば常駐先の客先による部分が大きかったです。要求が細かく、相性の悪い人がいた。明らかに嫌がらせとしか思えないような仕打ちを受けたこともあります。どんな雇用形態でも起きることです。
いま辞めたいと思っている人のうち、かなりの割合は、実はSESではなく現場の問題かもしれません。
3. 悪い人がいたわけではない
手取り足取り教えてくれた恩人の先輩がいます。話を聞いてくれる営業もいました。同じ目線で話し、今後の漠然とした不安を共有した気の合う同期も居ました。常駐先の人たちにも、悪意を持って接してくる人はほとんどいませんでした。
誰も悪くないのに、こうなる。それがこの話の性質です。
4. 得たものがゼロだったわけでもない
いろいろな会社の文化を見ました。いろいろな技術に触れました。プロジェクトの進め方が会社によってプロジェクトによって様々であることを知りました。ひとつの会社にずっといたら、たぶん知らなかったことです。
ただ、それは15年をかけて得るようなものではありません。そこは正直に書いておきます。
そのうえで、私の結論
できるだけ早く、出たほうがいい。
ただし理由は、「ひどいから」ではありません。
理由1:時間だけが、確実に減っていく
私は15年のうち、4年間について、自分が何をしていたかをほとんど思い出せません。片道2時間半、往復5時間の現場で、記憶に残らない作業をしていた4年です。
あの4年は、職務経歴書では1行になりました。
辛かったから駄目だ、という話ではありません。辛くなかったのに、何も残らなかったというのが問題なのです。
理由2:構造は、現場を変えても変わらない
現場が合わなければ、案件を変えてもらうことはできます。私も一度、そうしました。ただ、次の現場に移っても変わらないものがあります。
- 自分の単価も契約もスキルシートも、見せてもらえない
- 稼働時間の幅の中に、自分の味方がいない
- 頑張っても単価も給料も変わらず、作業だけが増える
- プロパーではないので権限が与えられず、その分の手間だけを自分が被る
- 担当する工程が狭いので、書けるものが増えない
- 己のキャリアは常駐先で担当することになる業務次第
これらは現場の性質ではなく、SESという働き方そのものから出てくるものです。だから、現場を変えても付いてきます。
理由3:長くいるほど、出られなくなる
これが一番大きい理由です。
常駐先が変わるたびに、使う技術も文化も変わります。Javaを書いていたかと思えば、次はまったく別の技術。その次はタブレット対応、その次はパッケージ製品の改修。
結果として、ひとつの技術を深く習熟することができません。広く浅くになります。
そして、こう思うようになります。
こんな人材を必要とする会社が、果たしてあるのだろうか。
私は実際に、これで一度止まっています。11年目を過ぎたころに一度転職を考えて、エージェントに会いに行ったことがありました。それでも動けませんでした。辞めたあとに自分のスキルが通用する自信が、まるで持てなかったからです。
そこから実際に動くまで、さらに3年以上かかりました。
理由4:なんとかなってしまう
そして、いま振り返って一番よくなかったと思うのが、これです。
現場ガチャであることも、単価を知らされないことも、思うところはずっとありました。それでも、なんとかなってしまっていた。
耐えられないほど辛ければ、人は辞めます。実際、私の同期にも、体調を崩した先輩にも、早くに出ていった人がいます。
私が15年いたのは、辞めるほどではなかったからです。
SESで一番危険なのは、辛すぎることではないと思っています。中途半端に耐えられてしまうことです。
「いい方」の会社で、15年いた人間の結論
私がいたのは、業界の中では悪くない方の会社でした。給与も、外の人に「意外と多いですね」と言われる程度には。
その会社で真面目に15年勤めて、残ったものがこれです。
だから私は、「SESはやめとけ」とは言いません。代わりに、こう言います。
まだ余裕があるうちに、外を見ておいたほうがいい。
いますぐ辞めろ、という意味ではありません。転職エージェントに会って話を聞くだけでも構いません。私は一度目にそれをやって、結局動けませんでした。それでも、あのとき一度外の景色を見ておいたことには意味があったと思っています。
自信がついてから動こう、と思っているうちは、たぶん動けません。自信は、環境を変えたあとについてくるものでした。
少なくとも私の場合は、そうでした。

